買いブドウから卓越したワインを造れる秘密

かつて映画関係の仕事をしていたレナとアレクシの2人が、ブドウ、アーモンド、オリーブの樹を育て、羊や鶏を飼って生きる道を南フランスのアルデッシュの地で選び、はじまったレ ボワ ペルデュ。初めてのヴィンテージが2019年とまだ新しいドメーヌです。

このように別のキャリアから転身してワイン造りを始めたという造り手は、過去にもたくさんいます。

その理由の一つとしてよく聞くのが、お子さんがある程度大きくなったタイミングで、都会での暮らしよりも自然の中で暮らす生き方のほうが良いのではないかと考え始めたというものです。

レナとアレクシにも天使のような2人の娘さんがいるのですが、彼女たちのこれからの生活を考えてアルデッシュに引っ越してきたのだと思います。

 
  
 
こうして、自宅となる建物と隣接する森や丘を購入した2人ですが、残念ながらブドウの樹は植わっておらず、自分たちで丘の斜面を整地して植樹するところからスタートしました。

一言で植樹と言っても大変な労力がかかるもので、1度にそんなに広い面積に樹を植えることはできません。その上、植えたブドウからすぐワインを造れるわけではなく、ワインをなんとか造れるブドウが収穫できるようになるまで5年ほどかかります。

もっと言うと、ある程度深みのある味わいのワインを造れるブドウとなるには、最低でも10年はかかると言います。

そのため、自分たちの畑のブドウではなく、近隣のブドウ栽培農家だったりワイン生産者だったりからブドウを購入してワインを作るというスタイルでスタートしました。

 
 
 

 
この「買いブドウ」でのワイン造りというのは、フランスでは広く普及したスタイルではありますが、良い品質のワインを造るという点では、実は簡単ではありません。

理由はいくつかあるのですが、ブドウを購入するということは、売ってくれる生産者がいるわけです。その生産者が、自分自身でもワイン造りを行っていた場合には、最高の品質のブドウは当然自分自身でワインにしようと思うでしょう。

また、ワインは造っておらず、ブドウ栽培のみ行っている農家もいます。その場合であっても、ブドウそのものの売買価格というのはあまり高い値段はつかず、どうしても質よりも量を求めてしまう栽培農家が主流になります。

しかし、そんな買いブドウからのワイン造りであっても良質なワインを生み出してくれる嬉しい例外があります。

「良いブドウは、自分でワインにする」というのは、一般論としては正しいのですが、例えばレ ボワ ペルデュがワイン造りを行うアルデッシュの地においては、同じく自然派ワイン造りを実践する造り手が、新しい挑戦者のために良い状態のブドウを融通するということが日常的に行われています。

 
   
栽培農家から購入するブドウに関しても、地域のリーダー的な自然派の造り手が、積極的にビオ(オーガニック)のブドウを購入し続けてきた経緯から、従来の協同組合への販売でなく、こうした自然派ワインの造り手への販売を増やそうと畑仕事を見直す栽培農家も増えてきました。

この背景には、協同組合が大量生産で安価なワインを造っても売れなくなってきたという事情もあります。ワインが売れなければ、ブドウも十分な量を買い取れませんから、栽培農家としても協同組合以外の独立したワインの造り手に買ってもらえるということは重要です。

アルデッシュはこうしたポジティブなムーブメントが、非常にダイナミックに成長している地域です。

自然派ワインのレジェンドと言える先人たちが数多くいて、その人たちが新たな挑戦者たちにサポート惜しまず、強固なコミュニティを形成しているからこそ、この結束が文化となり、良質なワインをどんどんと生み出す源泉となっているのです。
 
 
 

 
こうして、買いブドウから「良質な」ワインを生み出す土壌が整うわけですが、それでも尚、買いブドウから「卓越した」ワインを生み出せる造り手は限られます。

「卓越した」ワインを生み出すには、やはりその仕事に情熱を傾ける「人」の存在が欠かせません。

レ ボワ ペルデュは、買いブドウから「卓越した」ワインを生み出せる限られた造り手であると思います。

雷に打たれたような衝撃を受けた初ヴィンテージ2019年は、キュヴェが1種類だけでしたので偶然という可能性は排除できませんでした(そうではないという予感はありましたが)。

続いて到着した2020年の第1段
Elle Tremble
Embrasse-Moi
Elle Danse
この3つのキュヴェすべてが、2019年のワインからも感じた豊かな表現力が備わっており、と同時に、造り手の署名のような一貫したアイデンティティがすべてのワインから感じられました。

こうしたワインを飲むことを通じて、レ ボワ ペルデュの実力を確信するに至ったのですが、しかしまだ、なぜレナとアレクシが、買いブドウから「卓越した」ワインを生み出せるのかの理由がわかりませんでした。

その「なぜ」の答えを知りたくて、レナとアレクシのもとを訪ねました。そして、今年(2022年)6月に訪問した折に、その答えの片鱗を見つけました。
 
 
まず、買いブドウから「卓越した」ワインを生み出せる造り手の共通点として「カーヴ(醸造所)での仕事をおろそかにしない」というのがあります。

ブドウを買い入れた場合は、カーヴでの仕事しか存在しないので、何を当たり前のことをと思われるかもしれませんが、醸造の段階において、人為的に介入できる選択肢が限られている自然派ワイン造りであるからこそ、このカーヴでの仕事が非常に重要となります。

そして、その重要なカーヴでの仕事とは「観察」です。

私の知る限りにおいて、卓越したワインを生み出す造り手は、誰よりも足しげくカーヴに通い観察しています。

この「観察」という言葉を使ったのは、積極的にワインの味わいを調整したり、発酵をコントロールするわけではないからです。

しかし、自分の子供の成長を見守るように、深い愛と注意を常に向けていることが、素晴らしいワインの味わいにつながっているように感じます。

レナとアレクシもこの例にもれず、しっかりと観察し、常に注意と愛情を注いでいます。



 
 
 
これに加えてレ ボワ ペルデュのさらなる強みであると感じたのが、レナとアレクシの2人が揃ってワイン造りに取り組んでいるという事実です。

これも奇妙に聞こえるかもしれませんが、個々人の考え方を尊重する傾向が強いフランスにおいて、プライベートのパートナー同士が、同じぐらいのコミットメントの強さを持って仕事に一緒に取り組んでいるのは珍しいように感じます。

レナとアレクシのようにカップルでワイン造りに当たっているという場合でも、醸造や栽培の担当と販売や事務の担当といった具合に役割分担をしているケースが多く見られます。

しかし、レナとアレクシは、どちらかがメインでどちらかがサブというような分担はなく、文字通り二人三脚でワイン造りに取り組んでいます。

このパートナーシップの成果が、カーヴでの観察において最大限に発揮されています。
 
 
それは、レナとアレクシそれぞれが違った味覚・嗅覚といった感性を持っていて、その違った視点でワインを観察し、2人それぞれが意見を出し合ってワインの成長を見守れることが、レ ボワ ペルデュのワインの繊細かつ豊かな表現力につながっているのです。

面白い例として彼女たちが話してくれたのが、レナはフランスで言う「ネズミ(日本で言われる蒸した豆のような)風味」に敏感で、揮発酸(ヴィネガーのような香りと酸味)には鈍感。逆にアレクシは揮発酸に敏感で、ネズミ風味に鈍感だということです。

こうして感性の異なる二人が、しっかりとワインと対話し、そのポテンシャルを引き出すことに集中していることで、レ ボワ ペルデュの素晴らしい味わいが生み出されているのです。

 
 

  

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